市場は油断しているのか? その「瞬間」が来る前に、私たちは想像以上に長いあいだ、この「ダンス」を踊り続けることになるのかもしれない

【マーケットは狂乱のダンスを踊り続ける】エコノミスト、デービッド・ローゼンバーグ氏が、市場に対する慎重姿勢についてメディアに語っています。自身のベア・スタンスの根拠について、10の観点から説明しています。この見解について、私が感じたことを書き残しておきます。(自分自身への備忘録も兼ねて)

弱気派で知られるエコノミスト、デービッド・ローゼンバーグ(David Rosenberg)氏が、市場に対する慎重姿勢について、独自の見解をメディアに披露しています。
ローゼンバーグ氏は、以下の10のポイントを、慎重姿勢の根拠として挙げています。
(以下Financial Pointer記事より)
- 株価バリュエーション: S&P 500のCAPEは38.3倍と3シグマの状況。
- VIX: 15と低く、市場は油断しきっている。
- リスク管理: リスクの監視・評価が十分でない投資家が多い。
- EPS成長: 前年比・予想比では上回っているが、前四半期比では鈍化が始まっている。
- インフレ: 持続的ではない。(インフレが収まれば、株式の相対的優位は減る。)
- 供給: 供給者(特に国内石油・ガス)はすでに供給増に努めている。
- スタグフレーション、ハイパーインフレ: 数字を見る限り「完全にばかげている」。
- イールドカーブ: 2-5年は利上げを反映しスティープ化したが、5-30年はフラット化。
「ある意味、2-5年はFRBがむしろ積極的になり、5-30年はFRBがプロセスにおいて失策を演じると語っている。」 - 政策: より緩和的でない金融・財政政策が向かい風に。
- ボブ・ファレル:「強気(弱気)市場はいつも私たちが思うより先まで進む。
いずれも納得のいく指摘ではあります。
私が今回特に気になったのは、
デービッド・ローゼンバーグ氏のベア・スタンスの根拠(一部)
2. VIX: 15と低く、市場は油断しきっている
3.リスク管理: リスクの監視・評価が十分でない投資家が多い
8. イールドカーブ: 2-5年は利上げを反映しスティープ化したが、5-30年はフラット化
の3つです。
以下に個別にみていきましょう
VIX: 15と低く、市場は油断しきっている。

グラフは米国のVIXのトレンドです。
コロナショック以来、世界的な株価の騰勢を受けて、VIXはここのところ低め安定傾向にあります。
過去にこうした状況が長く続いたときには、その直後に、何かのイベントがきっかけでVIXの急騰を招くことがありました。
2018年はじめの「パウエルショック」(別名「VIXショック」)、2018年末のあえて呼べば「米中貿易摩擦ショック」(2019年年明けの下落は「アップルショック」)、そして2020年3月の「コロナショック」。
当時、米VIXはそれぞれ次のように上昇しました。
2018年2-3月 29
2018年12月 30
2020年3月 66
こうして振り返ると、「コロナショック」の激震度が改めてわかりますね。
リスク管理: リスクの監視・評価が十分でない投資家が多い
あくまで個人の雑感ですが。
コロナショック以降、世界的に個人投資家の若返りが進んだ印象です。
コロナショックに伴う株価の大暴落をきっかけに、たくさんの若い投資家らが株式市場に参入してきました。
彼らの多くはインデックス投信やETFのつみたて投資、あるいはタイミングを見計らったトレーディングをしています。
米国では、年明けに、手数料無料の株式取引アプリ「ロビンフッド」を利用して、株式掲示板Redditの情報をもとに短期売買を繰り返す投資家らの台頭が、盛んに報じられました。
こうした新規参入者は、「株価の上昇しか経験したことがない」投資家層が中心で、下落に対する準備ができておらず、暴落耐性がないことが予想されます。
世界中でレバレッジ型の投資商品が増えていますし、ボラティリティ(変動率)の高いグロース株に偏重する傾向も、一部には見られます。
いまのように株式市場が好調なときには何の問題もありません。
しかし、いったん不安定になると、価格の激しい巻き戻し(下落)を引き起こすおそれがあることには、注意が必要です。
「全員が強気になったときが相場のピーク」という格言もありますしね。
しかしこの「全員強気」の状態がかれこれ一年以上続いているのが、現在の状況です。
いつ、何を根拠に、「バスを降りる」のか。
つみたて投資家以外の投資家なら、気になるところでしょう。
イールドカーブ: 2-5年は利上げを反映しスティープ化したが、5-30年はフラット化

グラフは米国の金利動向です。
米10年債の動向ですが、ここ一年は確かに上昇しています。
現在は1.5%付近に落ち着いていますが、今年3月には1.7%を超えたときもありました。

米30年債の動向です。
確かにここ数カ月は落ち着いていますが、ローゼンバーグ氏のいう「フラット化」というほどではないような気がします。いずれにしても注視が必要です。

米5年債の動向です。
直近では上昇の勢いが増しています。市場はインフレを警戒しているということです。
最後に、これらについての私の雑感です。
VIXについて

VIXは長期にわたり低水準に張り付いたままの状態が続くことが、近年よくあります。
たとえば、2017年には10を割る水準が長く続きました。
まあそれが、反動としての、2018年初頭の「VIXショック」につながるわけですが。
2019年も、VIXは年間を通じて12前後に膠着した水準が数か月続きました。
VIXの低位安定を根拠に空売りに回った投資家たちは、痛い目をみたことでしょう。
このように、世界的な金融緩和政策が継続される近年において、VIXは低水準の状態を維持することが日常茶飯事になっています。
ローゼンバーグ氏による「(VIXは)15と低く、市場は油断しきっている」の指摘は、ことばどおりに受け取ると危険かもしれません。
VIXは今後さらに下げ続け、株価は上昇を続ける可能性があります。
ただし、彼の言う通り、「市場が油断しきっている」ことは十分に留意しておいたほうがいいでしょう。
イールドカーブについて
米10年債が今年3月に1.7%をつけたとき、メディアも盛んに報道しましたし、マーケットも警戒感から一時的に調整しました。
とはいえ、2018年には3%をゆうに超える水準だったことを忘れてはなりません。
現在の水準は、まだまだ低いと言えます。
一方で、短期物の米国債は上昇気味であるのに対し、長期物の米国債はそうでもないという事実。
ローゼンバーグ氏は「FRBがプロセスにおいて失策を演じる」と語っています。
債券投資家のFRB政策に対する不信感が、債券利回りに表れているということでしょう。
リスク管理について
上記の「油断」の指摘とあいまって、今後ますますの注意が必要でしょう。
私たち個人投資家にできることは、「資産の分散を図る」ことに尽きると思います。
SNSなどでは、米国やグロース株に集中投資をする若手個人投資家らを見かけます。
ある特定の資産に集中することがないようにして、分散投資や適正なアセット・アロケーションを徹底させましょう。
それが下落耐性の構築につながります。
また、気が大きくなっている投資家が周囲にいないか、個人だけでなく機関投資家にも「市場に乗り遅れまい」として無理な投資を行っているところがないか――
こうした投資家らの動きに目を光らせて「兆候」をつかむこと、それに応じて心の準備をしたり、対応をしておくこと。
これらが、ささいだけれども、私たち個人投資家にできる大切なことなのだと思います。
つまりは「観察」ですね。
私自身は、仮に今後市場が大きく調整するようなことがあったら、積極的に好きなファンドに追加資金を投入していこうと、その瞬間を手ぐすね引いて待ってます!
「伸びきったゴムは、いつかどこかの時点でパチンと弾ける」…そんな瞬間があるはず。
ただその「瞬間」が来る前に、私たちは想像以上に長いあいだ、この「ダンス」を踊り続けることになるのかもしれません。